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拠点テーマ:食と健康の文化
概要と目的
2022年4月から、大学共同利用機関法人人間文化研究機構(NIHU)による「グローバル地域研究プロジェクト」の一つとして、「海域アジア・オセアニア研究プロジェクト(Maritime Asian and Pacific Studies:MAPS)」がスタートしました。MAPSは、中心拠点である国立民族博物館のほか、京都大学拠点、東京都立大学拠点、東洋大学拠点の四つの拠点で構成されています。京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科(ASAFAS)東南アジア地域研究専攻に設立された京都大学拠点では、「食と健康の文化」をテーマに研究を行っています。
まず「海域アジア・オセアニア」というのは、どこの国・地域を意味するのでしょうか?アジアといえば日本を含めた東アジア、多様な国々を含む東南アジア、インドを中心とする南アジア、中東とも呼ばれる西アジア、それからユーラシア大陸内陸をさす中央アジアの国・地域が挙げられます。一方、オセアニアといえば大洋州とも呼ばれ、数多くのいわゆる島嶼国とオーストラリアやニュージーランドで構成されます。しかし、「海域アジア・オセアニア地域研究」が意図するのは、そういう行政上の国・地域がどこであるかということはあまりとらわれずに、「海域」に着目して地域を研究しようということであり、「海域の存在なしには理解できないアジアとオセアニアの人々と文化」の地域研究です。これまでの地域研究は、土地、国民国家、民族といった、陸的地域(そこに続く沿岸の海も含む)に基づいて研究をしがちでした。地域から海域へ。MAPSでは、海域からみた、ユーラシア大陸とオーストラリア大陸と無数の島々の文化を明らかにしていきます。
続いて、本拠点の研究テーマである「食と健康の文化」というのは何でしょうか?ヒトは食料を生みだし、病や怪我を治し、生きてきました。そのようなヒトを研究するときに、食料や栄養素が足りているのか、どれだけ長く生きていくことができるのか、という指標は大きな意味を持ってきました。しかし、生きている人をみてみると、ただ生存していれば良いというものではありません。つまり生存に必要な栄養素を充足していれば良いのではなく、美味しい食べ物を、仲間と一緒に、楽しく食べたいものです。それに生きているのであれば、単に病や怪我がないだけではなく、毎日明るく幸せに生きていきたいものです。食と健康は、ヒトにとっての根幹であり、それを満たすために豊かな文化が形成されましたが、その価値と目的は常に柔軟に変化してきました。ライフからヘルスへ。そして、身体・精神・社会で定義されるヘルスから簡単には定義されえないウェルビーイングへ。「食と健康の文化」をテーマとする本拠点では、広い意味での「ウェルビーイングの文化」を明らかにしていきます。
海域アジア・オセアニアに暮らす人々は、有史以前に島々と大陸へと移住した集団の子孫、そして集団同士での交流・婚姻から生まれた集団や、有史以降に交易や移住を通して形成された集団といった、多様なルーツを持ちますが、いずれも人類史において何らかの形で海域と関わった人々です。島という資源の限られた環境、熱帯雨林気候・熱帯モンスーン気候・熱帯サバナ気候・砂漠気候といった多様な環境それぞれにおいて、人は集団を形成しウェルビーイングのある暮らしを持続してきました。
また、今に目を向けると、グローバル化によって経済的に急成長している社会、それによって伝統を喪いつつある社会、気候変動や災害に悩まされている社会などがあります。加えて、「大国」による植民地統治を経験した海域アジア・オセアニアの多くの国々では、数多くの移民が移り住んできています。地理的に広大な範囲に分布する、アジア島嶼部・沿岸部とオセアニアですが、そこには共通する問題を抱えた社会が多く存在します。多様性ある文化と環境と課題に対して、フィールドワークをはじめとする地域研究の手法から調査していくことは、海域全体の理解と課題解決につながると考えられます。そのためには、さまざまな分野の研究者による多角的な研究が欠かせません。
このように本拠点は、何らかの形で海域にまつわる人間のウェルビーイングについて、文化や気候風土といった基礎的なことから、現代的な課題という応用的なことまでを明らかにするべく、研究に取り組んでいきます。
研究テーマ
・固有の文化と海を通した文化伝播
・多様な環境に対する多彩な身体的・生理的・文化的進化
・気候と社会の変動への文化による対応
・「食と健康MAP」の制作と公開
キーワード
生業、伝統食、保存食、珍味、嗜好品、伝統的治療、近代的治療、公衆衛生、障害、福祉、腸内細菌、アルコール問題、海面上昇、開発、森林生態系、近現代史、言語、相互扶助、食料貿易、環礁、大陸、GIS