ニューカレドニア・マレ島における食料の贈与交換と食生活

増田桃佳（東京大学大学院医学系研究科国際保健学専攻）

キーワード：肥満、栄養、贈与交換、自給的農業

 

要旨

　ニューカレドニア・マレ島において、食料の贈与交換と食生活の関係について予備調査を行なった。南太平洋の先住民において肥満や生活習慣病の増加が課題となっており、食の近代化がその要因の一つと考えられている。ニューカレドニア先住民カナックは食料の贈与交換を頻繁に行なっており、その食生活への影響に着目して予備調査を行なった。

 

背景と目的

　ニューカレドニアのカナックをはじめとする南太平洋の先住民において、肥満や生活習慣病の増加が課題となっており、イモや魚を中心とする在来の食生活から、糖や脂質の多い近代的な食生活への変化がその原因の一つと考えられている。カナック社会では食料の贈与交換が盛んに行われており、自給的に生産された食料（農業、漁業、狩猟に由来する食料）の約半分が贈与されたことが報告されている。そのため、自給的に生産された食料の贈与交換が健康的な食生活に寄与しうるのではないかと考え、調査を開始した。2023年9月に私が行った予備調査から、自給的に生産された食料は冠婚葬祭などの儀礼的な場面において盛大に贈与交換が行われるものの、日常の食生活への影響は少なそうであった。一方、日常的な場面においてはむしろ商店で購入された食料の贈与が多く見られた。そのため、購入食品の贈与交換が肥満の増加に寄与しているのではないかと推測した。本調査は、ニューカレドニア・マレ島のカナックにおける食料の贈与交換と食生活の実態を、観察と聞き取りによって、より詳細に調べることを目的とした。

 

調査結果の概要

　自給的に生産された食料の贈与は、2023年9月の調査では儀礼的な場面を除いてあまり見られなかったが、今回の調査では自給的に生産された食料、特に農作物の贈与が日常的に多く見られた。ある人が作物をあげるために他者を訪ねていくこともあれば、特定の作物を欲している人が他者にその作物を貰えるかお願いすることもあった。世帯によって育てている作物に違いがあり、収穫量にも違いがあるため、ある作物をたくさん収穫できた世帯が、その作物を育てていない世帯あるいは収穫量が少ない世帯に贈与する場面が多く見られた。このように前回の調査と異なる贈与交換のパタンが見られた考察として、今回の調査期間の2~3月は前回の9月に比べて作物が取れない時期のため、作物を分け合う必要性があるのではないかと考えた。食料の贈与交換に季節性はあるのか、また、作物の取れない時期の食料の贈与交換はフードセキュリティや食の多様性の確保、さらには肥満に予防的な食生活に貢献するのかという点について、今後検討できればと思っている。

　他にもいくつか食料の贈与交換が見られた場面がある。複数世帯が参加する大人数での仕事（今回の調査では主に家の建設や草刈り）の際に、購入食品（主に米と冷凍の鶏肉）と農作物や魚が持ち寄られ、皆で食べる食事に使用された。こういった大人数での食事は今回も前回も多く見られ、食生活を研究する上で考慮しなければならない存在だと考えている。また、誰かに何かを依頼をする際や、誰かの家を訪れる際に、お礼として食料を贈与する場面も見られた。この際、購入食品を贈与することも多く、加えて現金の贈与（日本円で1,000円程度）も好まれることが興味深い。食料以外にも作物の種や苗、種芋、子豚や家禽の雛、漁に使用するタコ墨などの贈与が見られ、これらも食料の入手に貢献していると考えられる。

　マレ島での調査はまだ予備調査の段階である。今回集めた情報を分析し、関連する文献を精読し、今後の研究の方向性を検討したい。

 

写真1：畑の様子。男性が触れているのはヤムイモの添え木である。芋類（ヤムイモ、タロイモ、サツマイモ）と同じ畑でネギ、トマト、レタスなど種々の野菜が育てられている。

 

写真2：他者にあげるために袋に詰められたヤムイモ。ある人が親戚に種芋として小さいヤムイモが欲しいと依頼されたため、後日相手に渡しに行った。

 

参考文献

Guyard, S., Apithy, L., Bouard, S., Sourisseau, J. M., Passouant, M., Bosc, P. M., Bélières, J. F. (2014). Agriculture in kanak tribes Weightage and functions of agricultural and hunting/fishing activities­ – IAC survey. Institut Agronomique Néo-Calédonien.　https://www.academia.edu/26392066/Agriculture_in_kanak_tribes_Weightage_and_functions_of_agricultural_and_hunting_fishing_activities_IAC_survey 最終閲覧日2024年3月29日.

Lormée N., Cabalion P., Hnawia É.S. (2011). Hommes et plantes de Maré. IRD Éditions.