【レポート】サン・レミジオにおける労働者送金と世帯の食料保障(浅利桃寧)
2026.4.6
日本語研究活動 New
サン・レミジオにおける労働者送金と世帯の食料保障
浅利桃寧(東京大学大学院医学系研究科国際保健学専攻)
キーワード:移住労働、労働者送金、食料保障、コメ、インフレ
要旨
セブ島北部に位置するサン・レミジオにて、食料摂取や労働者送金に関する世帯単位の質問紙調査を約一ヶ月間実施した。調査の結果、当地域では国際移動よりも国内都市部への労働移動が主流であること、また労働者送金の用途としては、食料品購入を中心とした消費に充てられるということが明らかになった。
背景と目的
伝統的な移民送出国として知られるフィリピンは、1970年代から徐々に労働者の送り出しを行うようになった。それに伴い、他国からフィリピンへの送金額も増加しており、銀行経由の送金だけでも、過去50年間で約1,000万米ドルから360億米ドルへと拡大した。同国の国内総生産の約9%を占めるなど、まさしくフィリピン経済を支えている労働者送金だが、ミクロ的な視点から考えると、海外からの送金は世帯収入の増加を通じて、個人の消費行動にも影響を与えているのではないかと推察される。過去の研究から明らかになっているように、特に海外移住の長い歴史を持つフィリピン北部において、世帯間の収入格差は、送金収入および海外からの年金収入があるかという点に最も左右されるという。しかしながら、送金による世帯の消費行動の差異に焦点を当てた研究はいくつか存在するものの、国や地域ごとに固有の文脈を持つ。本研究では、フィリピンにおける家計の特徴の一つである移住労働者からの送金収入に着目し、送金の有無やその用途が、世帯の食料保障や食物摂取に与える影響を分析することを目的とする。
調査結果の概要
本研究では、セブ島北部に位置するサン・レミジオ(San Remigio)(写真1,2)にて、約一ヶ月間の現地調査を行った。当調査地は昨年9月に発生した地震の影響を強く残しており、多くの世帯では地震による家屋の損傷が見られた(詳しくは家入さんのレポートを参照)。
OFW (Overseas Filipino Workers:在外フィリピン人労働者) という単語が日常で使われるほど、フィリピンでは海外への移住労働が浸透しているが、サン・レミジオにおいては、海外よりもセブ市といった都市部への労働移動が顕著であった。これには、都市部への労働移動と比較した際の、国際労働移動の距離的・心理的・金銭的ハードルの高さが関係していると考えられる。
労働移動の理由としては、より高い給料や、働く機会を求めて都市部へ移動するというものが主であった。また国外・国内問わず、労働者送金を得ているほぼ全ての世帯が、送金を食料品に使用していると回答した。次いで教育費や地震による家屋の修復費が挙げられるが、このように、送金は貯蓄ではなく、食料品を中心に何かしらの消費に充てられることが多いということが分かった。
その他のデータは分析途中のため、以下ではフィリピンにおける特徴であるコメに関して、観察をもとに記述する。
フィリピン人にとって、コメは最も重要な食料品の一つである。調査地の人々が言うように、コメは毎食欠かさないというのが基本のようであり、ファストフード店でも、ハンバーガーとコメ、パスタとコメ、といった組み合わせは一般的となっている。このように、フィリピンではコメが極めて高い消費水準にあるが、近年はコメの自給率低下と輸入量増加に伴い、小売価格が微増傾向にある。研究対象地域の一つであるポブラシオンのスーパーマーケットでは、国産のコメは1kgあたり57フィリピンペソ(150円程度)と、国内平均とほぼ同程度の価格で販売されていた。そのため、経済的な理由から、比較的安価なコーンライスも親しまれている(写真3)。不安定な物価上昇や人口増加が続くフィリピンにおいて、コメの需給・消費動向は食料保障に関わる重要なテーマであるため、今後も注視したい。

写真1:調査地の様子

写真2:調査地の様子

写真3:調査参加者の朝食
参考文献
Bangko Sentral ng Pilipinas. https://www.bsp.gov.ph/SitePages/Default.aspx
Philippine Statistics Authority. https://www.bsp.gov.ph/SitePages/Default.aspx
U.S. Department of Agriculture. Foreign Agricultural Service. https://www.fas.usda.gov/
長坂格(2009)『国境を越えるフィリピン村人の民族誌 トランスナショナリズムの人類学』明石書店.